
タップルで出会った女の子と飲みに行っただけのはずだった。
写真は清楚、メッセージは丁寧、会話も普通に盛り上がる。
俺は完全に「いい出会いが来た」と思っていた。
ところがその夜、俺は恋愛でも大人の関係でもなく、ただただ人間の悪意を浴びることになる。
マッチングアプリ「タップル」で美人局に遭遇した男の末路。これはその記録である。
【追伸】
長文になったけど注意喚起も含んでるので最後まで読んでくれ!
1、タップルで出会った清楚系の子
タップルでその子とマッチしたのは、平日の夜だった。
名前は仮にリナとする。
年齢は23歳。
写真は白いブラウスで、カフェっぽい場所に座っている。髪は暗め。メイクは薄め。派手さはない。むしろ「ちゃんとしてます」感がある。
これが一番危ない。
男は分かりやすいギャルより、こういう清楚っぽい写真に弱い。
なぜなら勝手に安心するから。
勝手に「この子はまともそう」と思うから。
勝手に脳内で住民票まできれいにするから。
俺も例外ではなかった。
プロフィールにはこう書いてあった。
最近アプリ始めました。まずは楽しくご飯行ける人がいいです。
はい、信用。
最近始めました。
楽しくご飯。
この2つの言葉だけで、俺の警戒心は段ボールくらい薄くなった。
最初のメッセージも普通だった。
俺が「はじめまして。雰囲気いいですね」と送ると、リナは「ありがとうございます。あまり慣れてないので変だったらすみません」と返してきた。
慣れてない。
この言葉も男を狂わせる。
慣れてないと言われると、なぜかこっちが優位に立った気になる。
実際は何も優位じゃない。
むしろ罠の入口で「足元注意」と書いてあるのに、俺はそれを花柄のマットだと思って踏んだ。
2、会うまでが妙にスムーズすぎた
やり取りはかなり早かった。
趣味の話を少しして、好きな食べ物の話をして、仕事の愚痴を軽く聞いて。
3日目くらいに、リナの方から言ってきた。
今週どこかでご飯行きませんか?
来た。
俺の中の小さい俺たちが全員立ち上がった。
拍手。スタンディングオベーション。
まだ何も勝ってないのに、完全に勝った空気になっていた。
ただ、今思えばここで違和感はあった。
場所の指定がやたら具体的だった。
「新宿ならこの辺が行きやすいです」
「駅から少し歩くけど落ち着いたお店あります」
「人多いところ苦手なので、静かな場所がいいです」
この時点で疑うべきだった。
初対面で、なぜそんなに店周辺に詳しいのか。
なぜ候補地が妙にピンポイントなのか。
なぜ「静かな場所」をそんなに推してくるのか。
でも当時の俺は違う解釈をした。
この子、ちゃんとしてるな。
違う。
ちゃんとしていたのは段取りの方だった。
俺を沈めるための段取りが、めちゃくちゃちゃんとしていた。
3、居酒屋では普通に楽しかった
当日、リナは写真通りだった。
いや、正確には写真より少し派手だった。
白ブラウス清楚系だと思っていたら、実物は黒のミニ丈ワンピースにロングブーツ。
清楚、どこ行った。
写真の白ブラウスは引退したのか。
でもかわいかった。
これがダメ。
かわいいと、違和感に全部モザイクがかかる。
男の危機管理能力は、かわいいの前で業務停止命令を受ける。
店はリナが予約していた。
小さめの個室居酒屋。
照明が暗い。
席が近い。
料理は普通。
値段は少し高い。
ここでも違和感はあった。
リナがやたら酒を勧めてくる。
「全然飲んでないじゃないですか」
「今日は楽しみましょうよ」
「私、酔うとよくしゃべるタイプなんです」
俺は最初、ただノリがいい子だと思っていた。
でも途中から、少し押しが強いなと思った。
それでも会話自体は楽しかった。
仕事の話。
アプリで会った変な人の話。
好きなタイプの話。
リナは笑い方がうまかった。こっちの話にちゃんと反応する。
目を見てくる。
たまに腕に軽く触れてくる。
そのたびに俺の脳内では警報と花火が同時に鳴った。
危ない。
いや、かわいい。
いや、危ない。
いや、でもかわいい。
人間の脳は本当に欠陥品である。
リコールした方がいい。
4、2軒目に誘われた瞬間、違和感はあった
1軒目を出たのは22時過ぎ。
普通ならここで解散でもいい。
初対面だし、次につなげればいい。
しかしリナが言った。
もう少しだけ飲みませんか?近くに知ってるバーがあるんです。
出た。
知ってるバー。
この言葉、今なら俺は全力で後ずさる。
知ってるバーは怖い。
「知ってる」は安心ワードに見えて、場合によっては地雷原の看板である。
俺は一応聞いた。
駅の近くですか?
リナは少し笑って、
近いです。すぐそこです。
と言った。
すぐそこ。
これも怖い。
人類は「すぐそこ」と言いながら普通に15分歩かせる生き物である。
しかも夜の新宿である。
すぐそこが何を意味するのか、地図アプリでも泣く。
結局、俺はついて行った。
この時の自分を後ろから蹴りたい。
革靴で蹴りたい。
でも当時は、まだ「ワンチャンセックスあるかも!」と思っていた。
本当に愚か。
ワンチャンの皮をかぶったノーチャンだった。
5、知らない男が現れ、美人局と気づく
細い路地に入ったあたりで、リナが急に立ち止まった。
スマホを見て、少し顔をしかめる。
「ごめん、ちょっと待って」
そう言って誰かに電話をかけた。
俺はその横でぼんやり待っていた。
この時点で帰ればよかった。
でも帰らなかった。
なぜなら男は、期待している時ほど判断が遅いから。
数分後、後ろから男が来た。
30代くらい。
黒いジャケット。
髪は短い。
目が笑っていない。
男はリナに向かって言った。
お前、何してんの?
空気が一瞬で死んだ。
俺は固まった。
体感温度が5度下がった。
さっきまで飲んでいた酒が、胃の中で全員正座した。
リナは下を向いた。
男は俺を見た。
「あんた誰?」
俺は答えた。
「アプリで会って、飲んでただけです」
声が自分でも分かるくらい小さかった。
情けない。
しかし、あの状況で大声を出せる人間はたぶん戦国武将だけである。
男はさらに言った。
「人の女に何してんの?」
来た。
この瞬間、俺は理解した。
あ、これだ。
聞いたことあるやつだ。
美人局だ。
都市伝説だと思っていたやつ。
ネットの注意喚起記事で読むやつ。
再現ドラマで見るやつ。
それが今、俺の目の前で実写化されている。
主演、俺。
やめろ。
キャスティングミスだ。
6、俺の財布とメンタルが同時に終わりかけた
男は声を荒げ始めた。
「どう責任取るの?」
「こっちは全部分かってんだよ」
「店行く前から見てたからな」
全部分かってるとは何だ。
何もしてない。
飲んだだけ。
むしろ俺は唐揚げを多めに食べただけである。
でも、その場では頭が回らない。
恐怖ってすごい。
人間から語彙と姿勢を奪う。
背筋は丸くなるし、言葉は「いや」と「えっと」だけになる。
男は金の話を匂わせてきた。
「迷惑料って分かるよな」
「警察行ってもいいけど面倒だろ」
「こっちも大ごとにしたくないんだよ」
はい出た。
大ごとにしたくない。
この言葉を使う人間が一番、大ごとにしようとしている。
本当に平和を望む人は、夜の路地で初対面の男を詰めない。
俺の財布には現金が2万円くらい入っていた。
カードもある。
スマホもある。
最悪、ATMに連れて行かれるのか。
そんな考えが頭をよぎった。
心臓がうるさい。
手が冷たい。
リナは横で泣きそうな顔をしている。
いや、お前が泣くな。
泣きたいのはこっちだ。
こっちは今、人生の防災訓練を本番でやらされている。
7、助かった理由は、冷静に店を出なかったこと
ここで俺がやったことは、とにかく移動しないことだった。
男は「ちょっと向こうで話そう」と何度も言った。
でも俺は動かなかった。
「ここで話しましょう」
「警察呼びます」
「お店の前に戻りましょう」
これだけを繰り返した。
正直、声は震えていた。
全然かっこよくない。
映画ならカットされるレベルで情けない。
でも、動かなかったのは正解だったと思う。
路地の奥や人気のない場所に行ったら、もっと怖いことになっていたかもしれない。
ATMに連れて行かれたら終わりだったかもしれない。
俺がスマホを取り出して110番しようとすると、男の態度が少し変わった。
「警察とか面倒だから」
「もういいわ」
「次やったら許さねえから」
何を次やるんだ。
唐揚げか。
俺は唐揚げを次も食うぞ。
男はリナを連れて歩いていった。
リナは最後までこっちを見なかった。
あの清楚写真の女は、夜の路地に消えた。
俺はしばらくその場から動けなかった。
足が棒というより、もはや割り箸だった。
軽く力を入れたら折れそうだった。
【まとめ】マッチングアプリ「タップル」で学んだ最悪の教訓
その後、俺は近くのコンビニに入った。
何を買うでもない。
ただ明るい場所に入りたかった。
店内の蛍光灯が神々しく見えた。
コンビニってすごい。
深夜の人間を救う教会である。
水を買って、外で飲んだ。
味はしなかった。
帰りの電車では、ずっとタップルの画面を見ていた。
リナのアカウントは消えていた。
ブロックされたのか、退会したのかは分からない。
ただ、あのやり取りが全部仕込みだった可能性を考えると、胃が重くなった。
「最近始めました」
「あまり慣れてないです」
「静かな場所がいいです」
「知ってるバーがあります」
全部、今見ると危険信号だった。
でもその時は見えなかった。
かわいさと期待で、全部都合よく解釈した。
男の浮かれた脳は、自分に必要な警告だけミュートにする。
今回、金は取られなかった。
殴られもしなかった。
警察沙汰にもならなかった。
だから「被害」と呼ぶには軽いのかもしれない。
でもメンタルは普通に削られた。
人を疑う感覚がしばらく残った。
アプリでマッチしても、まず「これ本物か」と思うようになった。
マッチングアプリ自体が悪いとは思わない。
普通にいい出会いもある。
真面目に使っている人も多い。
実際、俺も過去に楽しく飲めた相手はいた。
ただ、油断した男を狙う人間もいる。
美人局の特徴はこんな感じ↓
- 相手がすぐ会いたがる。
- 場所を細かく指定してくる。
- やたら酒を飲ませようとする。
- 人気のない場所や知らない店に誘導する。
- 関係性が曖昧なまま急に距離を詰めてくる。
このへんは、本当に警戒した方がいい。
あと、もし変な男が出てきたら、絶対に人気のない場所へ移動しない。
その場で店に戻る。
周囲に人がいる場所に行く。
必要ならすぐ警察を呼ぶ。
恥ずかしいとか、面倒とか、アプリで会ったのがバレたら嫌だとか、そういう気持ちは分かる。
俺も一瞬思った。
でも、そこで黙って金を払ったら相手の思うつぼである。
あの夜、俺は恋愛の入口に立っているつもりだった。
でも実際は、崖の端に片足を置いていた。
タップルで美人局にあった。
この一文だけ見ると、どこか他人事みたいに聞こえる。
でも実際に自分の身に起きると、笑えない。
本当に笑えない。
帰り道の俺は、笑うどころか、駅のホームで自販機の前に立ったまま何を買うか3分悩んだ。
水でいいだろ。
水しか喉を通らないだろ。
結局、あの夜に失ったものは金ではなかった。
浮かれた自分への信頼だった。
マッチングアプリは便利だ。
でも便利なものには、だいたい変な穴がある。
そしてその穴は、たいてい「かわいい」「会える」「脈ありっぽい」という甘い看板で隠れている。
俺は今でもアプリを使う。
ただし、前よりかなり慎重になった。
初回は人通りの多い場所。
店は自分でも確認する。
知らないバーには行かない。
相手の指定だけに乗らない。
酒で判断力を捨てない。
少しでも変なら帰る。
これを徹底している。
あの時の俺に言えることがあるなら、これだけだ。
かわいい子からの誘いは嬉しい。
めちゃくちゃ嬉しい。
脳が祝日に入るくらい嬉しい。
でも、夜の路地に誘われたら一回止まれ。
その先にあるのは恋ではなく、黒ジャケットの男かもしれない。
【29歳・東京都・会社員の美人局体験談】
・使ったマッチングアプリ:タップル


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